6.19 アメリカのサービス・日本のサービス

※このNY日記はもともと田中ゼミの学部ゼミ生のために書かれたものです。

同じことを何度も書くようですが、こちらに来るとサービスについてはいろいろ考えさせられることが多くなります。いくつか忘れないうちにメモしておきます。

先日、Kさん(こちらに35年も住んでアメリカ人のご主人と結婚され、広告ジャーナリストとして知られています)にお会いしました。ひさしぶりにいろいろお話したのですが、彼女に言わせるとこちらの生活はなんでも「交渉」であり「戦い」になってしまうのです。そういう生活に慣れたKさんが日本に帰ると何かにつけて引っかかってしまう、というのです。「なぜそうなの?」ということを言い過ぎると相手も「なにこのおばさん?」という反応を示してしまう。こちらでは何でもとにかく自分で交渉して自分で勝ち取る、ということが求められます。

 Kさんが言っていらしたことですが、夜中にケーブルテレビのインターネットがつながらなくなったことがあったのだそうです。そのとき夜中に電話すると確かにオペレーターみたいな人が一人いて、対応しているのだが、なんせ一人しかいないので、「ちょっと待ってくれ」といいながら、同時に何人もの電話に出ているらしいのです。

同じようなことは私が携帯を買ったときにも経験しました。AT&TのGOフォンというのをドコモの人に進められたので、買ったのですが、つなぐまでに相当電話で長い時間がかかった。延々と待たされたうえに、SSNや住所、買った携帯に書いてある20桁・15桁などのいろんな番号を何度も言わされ、そのあげくいまサーバーの調子が悪いので、まだアクティベイトすることができない、といわれて、また何時間か後に電話して、ようやくつながるようになったことがありました。(このことは先に書いた?)

 サービスはいまやお客がする時代になってきているという感じです。昔からガソリンスタンドはセルフサービスがふつうでしたが、それがいろんなところに広がっている感じです。スーパーでもお客が自分で価格のチェックまでするところがあるそうです。

 お金を払うということひとつとっても日本とはかなり違います。こちらの有力な支払い手段はチェックです。つまり日本で言う小切手。自分で銀行からもらった小切手帳を持ち歩いて、支払いのときにそれを切る。面倒なことは、相手の会社の名前や110ドルというときは、One hundred ten & 00/100と数字を記入しないといけない。

チェックは毎月の電話・ガス・電気・家具などにも支払いの手段として使われます。ビル(請求書)がくるとその金額をチェックに書いて、郵便で送るのです。そうすると、毎日毎日、何百万通ものチェックが郵便で送られて、それを誰かがチェックしていることになります。確かによく間違いもあるらしいのですが、いまだにそういうチェックという形式が行われているところがアメリカらしいです。逆に日本に来たアメリカ人には日本は現金社会だと写るらしく、それが面倒なようです。(もっとも現在、アメリカでも銀行振り込み、特にインターネットを使ったバンキングサービスが急速に普及しつつあります。)

 友人同士の支払いにもチェックを使うときがあります。現に私も電通の奥園君にレストラン代を割り勘にしたとき、チェックで彼に支払ったのですが、なぜか贋金を切っているような気がしました。現金同様に自分の振り出したお金が流通するわけですからね!

先日、ヤンキースの松井が「我慢しろ」ということを同僚から教わったと朝日のインタビューで言っていましたが、まさにこちらの生活では我慢することが大事です。

先日、医者で薬の処方箋をもらったので、調合薬局に行き、処方してもらったのですが、こちらでは翌日取りに行くことがふつうらしく、「翌日くるか?」と聞かれたので、「急いでいるので、待つ」というと「では、20分のちに」という具合です。日本ではそれほど待たされたということがありません。

ある日本人の友人のアメリカ人が日本で暑いので、日本の電気屋さんに扇風機を買いに行ったということです。この扇風機をください、というとなぜか店員が走っていってしまった。「なにか間違ったことを言ったんだろうか?」と心配して待っていると、店員が走ってその製品を倉庫に取りに行って戻ってきた、ということです。「私はほとんど泣かんばかりだった」とそのアメリカ人は言っていたということです。

アメリカの電器屋さんでは自分で店頭にある製品をもって支払いのコーナーに並び、支払いを済ませる。そのあと、商品をもって店を出るとき、店員さんに「領収書を見せろ」とチェックされます。まるでお客を万引き扱いにしているようですが、これがアメリカ流のセキュリティということになります。まあ今では、空港からビルに入るときまで、なにかにつけてIDが要求されますので、誰何されることには、いい加減慣れていますが。

しかし何度も言っていますが、アメリカがサービスという面で表面的に遅れているという印象があっても、それはやはり表面的なことです。医者を見ていても、私はたまたま耳の調子が悪くなったので、最初に日本語の通じる家庭医に行き、それから専門医に見てもらいました。専門医に行くとさらに、専門の耳の検査をしてくれる機関を紹介してくれて、そこでちゃんと検査してからその結果で診断をくだす、という仕組みになっていました。

(ちなみに後から聞いた話です。こちらにいる日本人の医師はもちろん優秀な人が多いのですが、日本人に知られている有名なクリニックは、対応が悪いとか、ちょっと問題がある医師もいるというウワサがありますので、そのあたり注意が要ります)

こちらではいろんなことが専門化されているわけです。医学などではこちらのほうがそういう面では進んでいます。知り合いの方がバセドウ氏病にかかったとき、やはりこちらではそれだけの専門の医者が診て、よくなったのだそうです。

それからなにかにつけてそうなのですが、こちらではどうしろ、ということが明確に表示していないことが多い。例えばいまコロンビア大学の116丁目の駅では延々と地下鉄の工事をやっていてUptown行きの地下鉄はその手前の駅で降りて歩くか、ひとつ先の駅で戻ってくるかしないといけません。車内のアナウンスでは連絡はもちろんあるのですが、そうした連絡がていねいにポスターになっていることなどない。ですからわからないときは遠慮なく人に聞くという習慣でないといけないわけです。また地下鉄の中の地図も最小限という印象がします。東京の地下鉄はNYよりはるかに複雑ですが、表示は親切です。

また大学などでも、ビジネススクールでのいろいろなお知らせは基本的にインターネットで知らせるということになっているので、余計掲示などは少なくなります。要するに日本流の考え方とは「思いやり」というやつです。相手の立場になって考えましょう、というのはかなり日本的で、我々は小学生のころからこうした考え方を植えつけられているせいもあり(小学校の学級にそういうスローガンが張り出してありませんでしたか?)、ほかの人のことを思いやるという「能力」を身に着けていますが、こちらの人は必ずしもそうではありません。

しかしそうした思いやりがまったくないか、というとそれも違うところがあります。少なくとも知的な人々は下手な日本人よりもはるかに他の人を思いやる気持ちが強いように思います。例えばグランドセントラル駅で駅に入るときのドアを開けたら(ちなみにこちらではタクシーも含めて自動ドアというのにお目にかかったことが無い!)、後の人が来るときにドアを押さえてあげる、ということは日本ではあまり見られません。

またコミュニティでは、子供を大事にするという考え方も強いので、アメリカが冷たい社会という見方は間違っています。アメリカはやはり開拓の国から出発しているんだな~と感じさせられることもあります。

つまり日本人とアメリカ人とでは、サービスでこうされるのが心地よい、という基準が異なる、ということがあるのだと思います。

マクドナルドに行くと、こちらのファーストフードは主にマイノリティの人たちの職場になっていますから、ヒスパニックの人たちなどが店頭に立っていることも多いのです。(そういう安い給料で働く人たちがアメリカの経済やビジネスを支えている)日本では大学出の人がマックで働いていますからね。こちらでは、ナンバー3をミールにして、ケチャップをどうのこうの、コークのサイズはどうのこうの、と細かく注文しないといけません。

ついでですが、「持ち帰りか、ここで食べるか?」というのは英語では”To stay or to go?”と聞かれます。持ち帰りはtake outではなくて、to goです。テイクアウトでも通じますが。こういう言い方はあまり習ったことがないので、慣れないうちはどぎまぎします。

日本は「相手のことを考えて」あまり何もいわなくてもよいようになっています。どうもアメリカ人には自分が細かく注文しないと気持ちが悪いということがあるらしい。

いま、アメリカで成功しているエアラインとして、JetBlueという会社があります。NYから西海岸など限られた国内線を飛ばして、SouthWestも有名ですが、JetBlueはサービスで好評です。私は乗ったことがないのですが、先日、CBSのダン・ラザーという有名な司会者が60ミニッツでJetBlueのCEOにインタビューしていました。どうも見ていると日本的な馬鹿丁寧なサービスではなくて、アメリカ的な親しみのあるサービス(話し方、空港での対応)があるらしい。たとえば、空港に着くときに、パイロットが「このエアラインでは経費を安くするために、皆さんの協力を求めます」というアナウンスをして、乗客にごみを拾わせるということです。日本の航空会社のサービスも丁寧で有名なのですが、それだけでアメリカ人が満足するかというと別の問題です。

6.22 コネティカット訪問記~Kさんのお宅を訪ねて

田中洋 中央大学ビジネススクール教授のオフィシャルサイト Marketing, Brand, Advertising