消費者ニーズとは何を意味するか(新商品開発において)

「固定観念」をニーズに変える

-新商品開発事例に見る「消費者ニーズ」開発の理論-
田中 洋

1.はじめに

この論文は、新商品開発において「消費者ニーズ」とは一体何かを考えることを目的として書かれている。このために、新商品開発事例を分析して、そこでどのようにして消費者の要求が探り当てられ、成功した商品化がなされているかを見ることにする。この序論においては、まず、(1)新製品開発がなぜ企業にとって今日重要になっているか、その背景を簡単に見ておきたい。次に、(2)マーケティングにおいてニーズがどのように捉えられ、把握されてきたかを考えたい。

1-(1)新製品開発の必要性
今日の企業にとって商品開発は、言うまでもなく重要な仕事の一つになっている。それでは、なぜ新製品開発が今日の企業にとって重要なのであろうか。
ひとつの理由は、企業がそれまで築いてきた自分の市場テリトリーが成熟あるいは衰退し、新しい市場を次から次へと求めざるを得なくなっている事態がある。新しい商品で市場を開発するのでなければ、企業の売上げが停滞するばかりである。このような事態において、状況を打開する有力な手段が新製品発売なのである。新製品によって、メーカーは売上げの底上げを期待することができる。

次の理由は、企業は常に競争相手に対して、自分の商品領域を入り込ませない工夫をする必要がある、ということである。例えば、ライオンに取って練り歯磨き市場は最も得意とする分野であり、この分野においてライオンが取るべき商品戦略とは、リーダーとして市場を考えるだけの商品発売によって、競合がやるよりも先に市場参入を果たしておくことである。これはリーダーの代表的戦略である。競合が先に入るよりも、先に機先を制することになる。ライオンは、自社の「共食い」(カニバリ)を恐れることなく新製品を投入する必要があるが、これは、新しい市場を開発するというより、むしろ自社シェア全体の防衛のためといってもよい。また、リーダー企業が同じ商品分野で多品種化する理由はラインエクステンション(ライン拡張)を自ら行うことによって、自社商品の陳腐化を防ぐとともに、競合のあらかじめの排除という意味合いが強い。

三番目の理由としては、日本的マーケティングの土壌が挙げられる。田中(1997)が調査した日本とアメリカのブランドマネジメントに関する実態調査によれば、アメリカのブランドマネージャが新製品よりも既存製品の従来顧客をターゲットにしていた、という結果が出た。毎年春・あるいは秋に必ず新製品を発売する、あるいは、新しい広告などの力によって新製品を浸透させてしまおう、という思想の反映がここに見られる。

2.ニーズとは何か

コトラーとアームストロングの「マーケティング原理」(邦訳、1995)はアメリカで標準的なマーケティングの入門的教科書とみなされているもののひとつである。この教科書の冒頭においては、消費者の「必要性」はいくつかのレベルに分けられている。まず、ニーズとは「人間の感じる欠乏状態」(P.6)であり、生理的・社会的・個人的ニーズがそこに含まれる。一方、欲求(wants)は人間の持つ固有の文化・パーソナリティによって形成されるニーズの「表現」であるとされる。例えば、空腹というニーズは、バリ島においては子豚の肉という欲求で満たされるが、アメリカにおいてはハンバーガーやフレンチ・フライという欲求で満たされるわけである。したがって、今日我々が取り扱おうとする商品は、ニーズにこたえているように見えて、実はある種の「欲求」を満たしていることになる。
「マーケティング原理」においてはニーズとウォンツに加えて、さらに、「需要」(demand)という概念が区別されている。需要とは、「買うことができる状態の欲求」である。欲求は需要という形になって初めて商品の購買につながる。需要は欲求を実現できるだけの資源(お金など)があることを意味している。ここで「製品」とは、ニーズ・欲求・需要を満たすことができる存在である。我々は製品を市場で交換することによって、消費者のニーズを満たし、企業は売上げを挙げているのだが、ニーズやウォンツのみを見出すことでは十分ではなく、企業としてはそれを製品の購買で充足できるように準備することが必要なのだ。コトラーたちにとって、マーケティングとは個人や集団が、交換を通して「そのニーズや欲求を満たす」(P.5)プロセスとして考えられている。

一方、消費者行動研究者であるソロモンの消費者行動のテキストによれば、やはり消費者の動機プロセスの中に、最初ニーズを感じた消費者が、次に動因(drive)の強さ・方向によって導かれ、欲求(wants)を形成することになっている。ここで欲求とはニーズの表現である。(なお、誠信書房版の心理学辞典(1981)によればニーズは要求と訳され一時的要求(生物的要求)と二次的要求(文化的・社会的に学習された)との二つに分類されている。)

いずれにせよ、ここでは、我々にとってはニーズという概念は生理的な基本的なものと、欲求と呼ばれる社会的・文化的なものとの二つがあることを理解すれば十分であろう。しかし、前出の心理学辞典の記述によるまでもなく、欲求・要求・欲望などの区別は理論によって異なり、混乱している。 我々はここでは厳密な定義を行うよりも、商品開発におけるニーズとは何かを考えるための手がかりとして、取りあえず既存の記述を参照したわけであるが、少なくともこの段階で言えることは、我々が何か商品を欲する、という時、表面的に表明されている「必要性」とは異なる、より「深層の」必要性ないしは欲求がその背後に潜んでいる、という考えをここでとりあえず抽出すれば十分であろう。

3.新製品開発の考え方

われわれは上記までに、「消費者のニーズに対応する」マーケティングの考え方がそれほど単純でもなければ簡単でもないことを見てきた。現場の新製品開発の担当者にとってはそれはいわば自明のことであり、あらためて「消費者ニーズに対応する」新製品開発のあり方について、さらに考察を進めていきたい。

近年新製品開発の現場のあり方に問題意識を据えて、この問題に最も考察を深めてきたのは石井淳蔵(1993)である。彼の「マーケティングの神話」の最初の部分の考察を以下要約してみよう。

これまでドシがモデル化したように、新製品開発のスタイルは(1)市場プル型、(2)技術プッシュ型、の二つに大別されてきた。前者は明確な消費者ニーズがあり、それを満たすために製品開発が行われ、後者においては明確な技術シーズがあり、それに関連する市場ニーズが満たされるとする考え方である。しかし、商品開発の現場をヒアリングすると必ずしもそのような形で開発作業が進行しているとは限らない。現実にはニーズとシーズがあいまいな局面で出会い、複雑な「プロトコル局面」を構成しているのである。消費者の欲望と製品技術との間での必然的な結びつきを事前に仮定することはできない。ある新商品が成功するとき、その結果は「消費者ニーズに合致したからだ」という「神話」が語られがちである。

むしろ新製品の成功は思いがけない要因によって支えられることが多く、あらかじめ商品の成功を予測することは困難である。製品が持つ「意味」はもともと多義的なものであり、コンテキストに従って変容する。消費者の欲望が存在することを事前に名指しすることはできない。その理由は:

  • (1) 消費者自身が自分の欲望を表現することができない。
  • (2)消費者の抱く欲望は他人の欲望が介在したものである。
  • (3) 製品(手段)が欲望(目的)を決定する。

つまり製品の持つ能力といったものは、それ自身ではなくて、消費者ニーズに依存してしか定義できないし、消費者欲望それ自体も交換を通じてしか存在できない。
石井はこのように商品と消費者ニーズの関係を規定して、さらにどのような商品開発のスタイルがありうるかを提示する:

製品開発のパターンは、大きく二つに分類できる。ひとつは「モノ型製品開発」(論理実証型)といわれるものであってニーズと技術・市場受容性との透明性が高いものである。例えば、金融商品のように商品機能がわかりやすく、顧客が自分のニーズを了解している場合である。一方、「芸術型製品開発」(意味構成・了解型)と名付けられた製品開発のパターンは、あらかじめ技術開発側も消費者側もゴールがはっきりせず、開発側ではどのような意味を与えるのかが課題になるし、消費側では意味を読み替えて消費を行う。開発側では消費者ニーズの意味を構成しながら製品コンセプトを決定するのである。
以上が石井の考察した商品開発と消費者ニーズとの関係の概要である。ここでは現場での必ずしも直線的に行われるわけではない商品開発のプロセスがよく現場感覚に即して理論化されていると言える。しかしながら、ここで提出された二つの製品開発タイプについては、以下のような批判が有り得る。

果たして「モノ型製品開発」のように完全にニーズと市場受容性との間が透明な関係がありうるのだろうか。このタイプがイデアルチップス(理想形)として提出されているとしても、例えば金融商品のように予想される利益とリスクとが常にトレードオフされる関係にあることが予見できている商品にあっても、なおニーズは完全に予想可能ではないであろう。(例えば、近年自動車会社にとって海外に輸出する自動車が船にある間の「海上在庫」が証券化される商品が登場したという。このような場合自動車会社にとって事前にニーズが存在していたということができただろうか?)もうひとつの問題は、この理論的枠組みだけでは新しい商品の価値付けをなお事前に言うことができない点である。例えば、レンズ付きフィルム用のセルフタイマーと三脚が発売された(日経ビジネス、97年7月14日号、p65)。確かにこの商品の登場は、レンズ付きフィルムの持つ欠点であるセルフタイマー機能の欠如が始めて名指しされたことになる。しかしながら、この商品の決定的問題は記事の中に書かれているように、レンズ付きフィルムが持つ携帯性とこの新製品コンセプト(タイマーと三脚を持ち運ばなくてはならない!)とは大きく矛盾する点である。石井の論議では例えばこのような「失敗製品」の可能性を理論的に前もって言うことができない。

更に言えば、石井の提出したタイプ分けの理論的根拠がいまひとつ判然としていない。このために、何によってこの二つの型が生じてくるのかが明らかにされていないし、これ以外の型が存在する可能性が否定できないのである。
しかし、石井の議論はこれまであいまいにされてきた新製品開発の理論と実際の開発現場のギャップを解明した点において高く評価しなければならない。
以下ではこの石井の議論を踏まえながら、実務的側面から、開発側がどのような視点を消費者について持つべきかを考察することにする。

4.新商品開発における消費者ニーズ考察の方法

ここでは商品開発に関して書かれたいくつかの文献を参照しながら、消費者ニーズをどのような視点から見るべきか、また掘り起こさなければならないかを考察したい。無論既に石井が指摘したように、こういった文献・ケーススタディにおいては、新製品成功の「秘密」が事後的に再構成されて「神話」としてしか語られていないことも多いと考えられる。それにもかかわらず、ここでそのような文献を参照する理由はひとつには現場で行われた「実際の」商品開発のプロセスを再構成すること自体が困難であるからである。というのは、新製品開発をすべて一人の人が見ているわけではなく、複数の人間が関わった場合、いくら証言を積み重ねても「薮の中」状況になりやすい。商品開発は多くの場合多数の人が参加し、その過程自体が意味の解釈を伴うものである。

むしろここで文献研究に期待したいことは、そこで共通した消費者ニーズ解釈の方法があればそれは事後的にせよ現場の新製品開発に役立つであろうし、消費者ニーズを読む方法は、ある程度定型化することが可能であろうという前提に基づいている。

先に、ケースに基づいて考案された二つの商品ニーズ解釈タイプについて書いておきたい:

  1. 1.変化ギャップ対応型商品開発
    =何らかの理由で、現行商品とニーズ対応の間に不具合・ギャップが生じてくるのを発見して、そのポイントを改良・開発する。あらゆる商品は時間の進行とともに「時代遅れ」にならざるを得ない宿命を持っている。しかし多くの場合その時間的変化に気づくことなく多くの商品が発売されつづけている。
  2. 2.消費領域横断型商品開発
    =異なった消費領域の発想を移植して、現行市場に新しい商品カテゴリーをもたらす。商品にはカテゴリーによって独自のカバーするニーズのエリアがあるが、別の分野の発想を該当する商品分野に持ち込むことで新しい革新を起こす戦略である。

上記の二つの開発タイプを以下ではさらにいくつかのタイプに分けて、具体的に考察を進めてみたい。

1.変化ギャップ対応型商品開発

1-1.生活形態の変化

このタイプの商品開発は、まず生活の中で変化する部分に着目する。例えば、花王のつや出しマイペットでは、フローリングの床が日本の家屋・マンションで近年増加した事実に着目している。フローリングの床が増加すれば、従来の畳や絨毯だけに対応していた掃除機だけではカバーしきれないニーズが発生するからである。電気掃除機は必ずしも十分にはフローリングの床掃除にとって便利なものではない。その一方で、床磨きは一年に一度しか行われてこなかった実態が明らかにされ、これらの事態の間にあるギャップを埋める製品開発がなされたのである。またキレイにするだけでなく、手入れを含めて従来の床磨き剤では満たされてこなかったニーズを発掘することができた。

またカシオのQV-10というデジタルカメラでは、パソコンが急速に普及したきた市場において、静止画像を取り扱う「文化」が発達してきた点に着目した。消費者が新しい生活道具を使い始めたとき、従来の道具だけでは対応できないニーズが発生する。そこでは以下にして早くそのギャップに対応した商品を競合に先んじて発売するといったスピードが求められるだろう。

1-2.生活意識の変化

物理的な生活環境の変化だけでなく、生活者の意識の変化を具体的に把握し、やはり旧来との意識との間にできた「ギャップ」として捉えることが方法的に求められる。

例えば、広い意味では多くの新製品では、消費者が「面倒くさい」と感じることが解決されている。手間や時間のかかること、また習得するのに時間のかかることは生活の中でますます排除される傾向にある。基本的に家電製品の開発競争はまさにこの線に沿った
ものだったと言ってもよいだろう。

食品のおいては、このような「利便」意識の高まりと、同時に内容物に関する「自然・健康意識」、さらには「美味化」志向が市場を引っ張ってきた力であったといってもよい。ここでの新製品の成功は、割と単純な形で語られることが多い。例えば、ノンシュガー志向が高まったので、ロッテのノンシュガーガムが発売されたように。

この方向での商品開発の成功例は多くあげられるが、この分野での成功は、広い意味でのギャップにとどまることなく、より特定化されたギャップに注目することが必要だろう。例えば、健康志向だけでは新製品開発に必要な示唆・ヒントを得ることはもはや不可能であろう。牛乳の消費量が増加したように、老化した骨の強化というように非常に具体的でかつ欲求性の高いニーズ領域を発見することが重要だろう。

この意味での成功例として花王の「スムーザー」をあげておきたい。家庭での主婦の仕事のなかでアイロンがけは食器洗いと並んで不評なもののひとつである、という調査結果を踏まえて、従来あたりまえの仕事と思われてきたアイロンがけが主婦にとって(おそらく他の家庭内作業が軽減されてきたために)重荷に思われるようになってきた事態を重要視して開発されたのが、アイロン仕上げ剤である「スムーザー」である。

また、資生堂のビバーチェもこの例に近い。日本人のフレグランス使用量は外国よりも少なかった。日本人には近年、伝統的な微香性志向に加えて、本格的な香りが一日できるだけ長く持続してもらいたい気持ちが高まってきた。このギャップに着目したのがビバーチェという商品である。

ついでながら、近年の消費者の変化の中に、「予防」コンセプトへ反応する傾向が高まってきたことを指摘したい。従来、自動車の事故防止のためのベルト着用が法律で決められる以前はなかなか普及しなかったように、予防コンセプトは効きにくいとされてきた。しかし、老後のアルツハイマーがアルミニウムの体内蓄積で引き起こされるという一部の説によってアルミ製品が避けられているように、「予防」がより重要な考え方として広まってきた。「生命保険」への関心の高まりもこの線に沿っている。おそらく、予防の中でも容易に経済的な損得が勘定できるものについては消費者は反応しやすいことがあるだろうとは考えられるが、この点についてはなお考察が必要である。

2.消費領域横断型商品開発

2-1.他商品機能移植型

「たまごっち」は、他の商品が有していた「ペット」という機能を電子おもちゃに取り入れることがその基本的発想にある。たまごっち開発にかかわった女性は、テレビでヤクルトのコマーシャルを見ていて、”ペットとは単に飼っているだけではなく、連れて歩きたいものだ”というペットの「携帯性」に着目したという。また、ペットを飼っている人にインタビューしてペットをかわいがる理由はそれ自身がかわいいからでは必ずしもなく、ペットに「手間をかける」ためにそれが一層かわいくなることを発見したという。ここでは、他の商品にある機能を再解釈してそれを当の商品に移植することが求められているだろう。

2-2.技術・素材移転型

これはシーズを生かして全く異なった商品カテゴリーに適用して成功を収めた商品群である。東レの「トレーシー」はまったく異なった目的のために開発された布を眼鏡拭きに転用した例であるし、花王のクイックルワイパーでは、不織布をやはり転用して床の掃除用に転用して成功した事例である。不織布によって、ほこりや髪の毛が楽に取れ、かつ腰をかがめなくてもよいことになった。不織布は髪の毛を「絡め取る」それまでの掃除機・モップにはなかった機能を持っていた。

2-3.他のユーザーニーズの移転

カシオの「ギアウォッチ」は、ダイバーのもっていたニーズを腕時計に取り込むことで新しい商品ジャンルを創造した。カシオのスタッフは、ダイバーにどのような機能を期待するかをヒアリングして、この商品の機能部分を開発した。このように一般的では必ずしもないユーザー層の意見を商品に反映させることも創造的な商品開発に必要な作業かもしれない。

2-4.無視された機能の見直し

ある商品は多くの、複数の機能やベネフィットを同時に有している。例えば、チョコレートを楽しむのは、甘みや香りだけではない。「食感」もチョコレートの重要な属性なのであるが、この点に着目した製品はそれまで市場になかった。この食感をより楽しむために「口溶け」を強調したのが明治製菓の「メルティキッス」である。口に入れたらすぐに溶けるように、商品の設計を考案したわけである。
ある商品の持つベネフィットは時として矛盾したものを同時に持っていることすらある。例えば、たばこやコーヒーは人をリラックスさせると同時に緊張ももたらすことができる。人が仕事が終わったときにたばこやコーヒーを飲むのはリラックスするためであるが、仕事に取り掛かるときにもこれらの商品を使うのは緊張や興奮を得るためでもある。このようにある商品がもっており、かつ十分に開発しきれていない領域に着目することは有望な方法となり得る。

5.結語

以上、商品開発のニーズ発見の方法を現実の開発事例に基づいて分類記述してきた。これらの方法を一言でまとめて言えば、消費者が持っている「固定観念」あるいは開発者自身がとらわれている「固定観念」に固執してはならないということであろう。変化ギャップ対応型で示された開発タイプではまさに、時代の変化に対応して商品を発想すべきことが強調されている。

商品開発のタイプは、しかし、以上のタイプにすべて収まるわけでもない。例えば、ホンダNSXの事例では、ホンダが目指した「走りの文化」と独自性の尊重が目指されて、世界一のスポーツカーを作るという目標のもとに設計された。これはいわば、企業理念専攻型と呼べるかもしれない。ソニーの電子ブックプレーヤーも、ソニーの「いつでも、どこでも、誰にでも」というヒット商品の中心コンセプトに沿って開発された商品である。こういった商品開発タイプは「創造型商品開発」(尾上伊一郎・武蔵大学)と呼べるものかもしれないが、ここでは詳述しない。

いずれにせよ、商品開発担当者は、それまで持っていた自分自身の固定観念をうちやぶりながら商品を創造していくことが求められている。以上の論述がそのために役に立てば幸いである。

(以上)

中央大学名誉教授。事業構想大学大学院客員教授、BBT大学院客員教授。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長などを歴任。田中洋教授オフィシャルサイト Marketing, Brand, Advertising