6.12 アメリカ社会における日本と日本人であること

※このNY日記はもともと田中ゼミの学部ゼミ生のために書かれたものです。

前にも書きましたが、日本がどう受け止められているかは日本人にとって気になるところだと思います。昔は「アメリカ人の度肝を抜いた」と自慢げに語られるような「事件」があったりしました(例えば、アメリカの大学の卒業式に羽織袴で登場してアメリカ人の度肝を抜いたとか・・・)。しかし今ではそうした考え方はちょっと馬鹿げて見えます。イチローやマツイはアメリカ人の評判は高いのですが、彼らはアメリカに来ればアメリカの選手とみなされています。たまたま日本人ぽいところがあるし、まだまだ日本人は珍しいですから、日本人という扱いをされることもあるのでしょうが、例えばキューバ人の優秀な選手がいても彼はキューバ系アメリカ人としかみなされないでしょう。(先日コルクのバットを使って問題になったソーサなどもアメリカ人としてしか遇されていない)

私のホストプロフェッサーのホルブルック先生は、マツイもイチローも絶賛していました。>もっとも例外としてアジア系アメリカ人という言い方で、先日日本人系の陸軍だったかトップの軍人が退官しましたが、彼はアジア系としてはもっとも高い地位についた、ということで新聞に書かれていました。ただしそれは例外的なように思います。

マーケティングの分野でも、研究者としてふたりくらい日系の人がいます。ひとりはバージニア工科大学のKen Nakamoto教授で、先日彼がコロンビア大学のマーケティングキャンプに参加していたので、話す機会がありました。彼は消費者行動論の研究者としては良く知られています。三世でおじいさんが岡山出身なんだそうです。しかし日系だからということがこうした場所では別に関係ないので、それ以上のことは話しませんでした。Nakamoto教授は話し方や研究の発表のあり方などはまったくアメリカ人なのですが、面白いことに物静かな日本人の(好ましい)特性を備えている人のように見えます。韓国人の研究者に話したら、そう思うといっていました。

一週間前に行われた「マーケティングキャンプ」のことはまた別に書くつもりですが、ここではいわゆるアングロサクソンはまったくの少数派で、アジア系、中東系、インド系、ヨーロッパ系などが入り乱れていて、外人であることはまったく何の意味もありません。お互いに個人で研究者ということです。これがアメリカなんだということをこのキャンプで実感しました。野球のメジャーリーグも同じことだと思います。

マーケティングサイエンス系の学者でKamakura教授という方も名前だけは知っていますが、会ったことはありません。彼も良く知られた人です。

ちなみに日本在住のマーケティング学者で知られているのは関西学院大学の中西先生で、彼はバークレー(カリフォルニア大学)に80年代の初期まで研究者として活躍していたためです。当時のCooperとの共著論文は古典的です。消費者情報処理の体系をまとめたBettmanも当時バークレーでした。しかしそのほかの日本人学者は残念ながらほとんど知られていません。そのころのバークレーは黄金時代だったとやはり当時そこにいたCapon教授が言っていました。

マンハッタンのミッドタウン、ロックフェラーセンター(冬になると巨大なツリーが飾られたり、スケート場が開設されるので知られています)には日本の紀伊国屋書店があり、かなり大きいので、色んな本が入手できます。そこのマンガコーナーにはアメリカ人のマンガオタクが来ていて、見ていると太っていてめがねをかけて、日本人のオタクと良く似ていて面白いものがあります。これも日本文化のひとつの受容の仕方なんでしょう。

では日本の社会などはどう受け止められているか。りそな銀行グループに政府が介入して国有化するということがありましたが、NYタイムスにはcorporate socialismだと書いてありました。事実上の国有化ですから「企業社会主義」と受け止められててもしかたのないところがあります。アメリカでも金融企業に国が介入することはありうると思うので、これを社会主義と考えるのが正しいかどうかわかりませんが、しかしアメリカから見ているとジャーナリズム的にはそう書かれてもしょうがないのでしょう。

日本の商品はどうでしょうか。こちらで日本の商品でもっとも評価が高いのはもちろん車です。トヨタのカムリなどは特に評価が高いもののひとつです。しかしソニーなどはどうでしょうか。もちろん一般的なレベルではそうでないのでしょうが、実際はソニーはゲームの会社であり、映画の会社であり、マライア・キャリーを抱える音楽会社でもあるわけで、アメリカ人にはそのように徐々に受け止められているようです。

しかしともすると日本はガジェット(精巧なおもちゃ)を作るのがうまい、と受け止められる傾向もあります。雑誌の新製品欄などの扱いを見るとそんな雰囲気があります。アメリカのCMを見ていても、車を除くと日本企業のCMはそんなに目立っていません。

ちょっとまとまりませんが、日本がどう受け止められているか、またそれをどう考えたらいいか、についてはまだ決定的なことはいえません。でもそういう意識~日本はどう受け止められているのか?と気にする傾向~をとりあえず忘れることが大事なんではないかと今は思っています。先に書いたようにMLBや学会ではどこの出身かということは問題にはされず単に力が問題になるだけなのです。

6.19 アメリカのサービス・日本のサービス

中央大学名誉教授。事業構想大学大学院客員教授、BBT大学院客員教授。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長などを歴任。田中洋教授オフィシャルサイト Marketing, Brand, Advertising