8.16- NY大停電の顛末

※このNY日記はもともと田中ゼミの学部ゼミ生のために書かれたものです。

日本でも大きく報道されていると思いますが、NYでは8月14日の夕方4時すぎから大停電が起こりました。私はたまたまその日はオフで自宅にいました。夕方4時20分くらいに電気が切れました。ヒューズが飛んだのでは?と思い、チェックしようとしたのですが原因がわかりません。こちらの電気会社はCon Edisonといってガスと電気をひとつの会社で経営しています。そのコンエディソンに電話しようとしたのですが、つながりません。(電気が来ないと電話は使えないと思っている人がいるかもしれませんが、原則的には電気がなくても電話はつながります。ただし電話器が電気で動くものはダメです) ふと隣の家の庭を窓から見ると、いつも動いているはずのプールの掃除用のモーターが止まっています。どうも電気が止まっているのはうちだけではなさそうなのです。

しかしアメリカでは停電自体はそれほど珍しいことではなくて、私もこちらに来てから食料品店にいたら突然雷と雨に襲われて、そのお店の一帯が停電になり交通信号が止まってしまったのを見たことがあります。今度もそのような限られた場所の停電かと最初は思っていました。

そこで日本人の不動産屋にどうしたらよいか聞いたところ、NY一帯が停電になっているのだということ。テレビも写らないので、様子がさっぱりわかりません。電気はないのですが、パソコンの電池でインターネットは見ることができるため、NYタイムスのサイトを開いたところ、どうも広い地域にわたって停電していることがわかりました。後、たまたまもっていたラジオで日本の短波放送を聞いたら、やはりアメリカの東部の広い範囲で停電していることを放送していました。次第に様子がわかってきます。とりあえずテロではないことも確認しました。

こちらでは夜8時ころに暗くなります。そこで早めに食事をして、テレビもないので、ラジオやインターネットを頼りにして情報を集めます。どうもマンハッタンもそうとう混乱している様子。8時近くになりお隣の第一生命にお勤めの田中さん(同じ苗字)が帰宅されました。いつも夜遅いのですが、この日に限ってはマンハッタンのオフィスから友人の車で家まで送ってもらったらしく、早めに帰宅されたようです。

8時を過ぎると家の周りは真っ暗です。なぜか近所で子供たちが遊んでいる声が聞こえてきます。はっきり言って何もできないのが停電です。本や雑誌を読むこともできないし、情報もあまり入ってきません。そのうちに眠くなりうとうとしていました。

夜中1時20分ごろ突然電気が戻ってきました。これほど電気が点くことがありがたいと感じたことはないでしょう。早速ニュースをテレビで見るとまだ電気が戻っていない地域も相当ある模様。またマンハッタンでは家に帰るために道を延々と歩く人たちの様子が映し出されました。

15日翌朝、また電気が失われるのではないかと心配しながら、テレビをつけると停電のニュースばかりです。マンハッタンでは家に帰れず夜を路上で過ごした人のニュースや道を歩き続ける人のニュースなどが放映されています。たまたま昨日は出かける日ではなくて幸いでした。この日はマンハッタンの地下鉄も動いていないということ。マンハッタンで地下鉄が動かないのは最悪です。

15日金曜日は知り合いの一橋大学の先生がNYにいらしたので本来はお会いする予定だったのですが、結局キャンセルにしてしまいました。(この先生が前にアメリカにいらしたときは、9.11だった!)

16日土曜日の朝までに停電はNY全体でほぼ回復しています。しかし後からわかったのですが、私の住むハリソンでは比較的早い時間に(停電してから10時間後くらいに)停電が回復していたのですが、他の地域では15日の朝まで停電していた地域もあれば、24時間停電していたブロンクスのような地域もありました。

15日の金曜日はしかたないので、買い物に近所の食品スーパーに行きました。平日なので本当は客が少ないはずなのですが、会社をお休みになった人たちが買い物に来ていてややにぎわっています。NY市長のブルームバーグはこの日を夏の「大雪の日(snow
day)」と考えてできるだけ休むように呼びかけています。NYでは冬に大雪が降ると交通がストップするので、会社が休みになります。その習慣にならうというわけです。

マンハッタンの地下鉄は結局15日は一日動かず、16日になってから運転を再開しています。新聞やテレビでは盛んにこのニュースの続報(Blackout of 2003)を流しています。1965年、1977年のNY大停電の記憶がまだ残っているなか、なぜ今回の停電が起こったのか、いまだにはっきりとした原因はつかめていないようです。NYタイムスによると、中西部で停電の数時間前に起こった送電の問題が引き金になっていたということなのですが。カナダとアメリカで原因をなすりつけあっているのはなんともみっともないですね。

このように大停電の原因はまだ明らかではないようですが、根本的原因は古い送電施設によるようです。電気使用の増加に送電施設が追いついていないのです。送電の技術は1950年代のものを使っているとのこと。

そういえば、マンハッタンのど真ん中、国連ビルの横のイーストリバー沿いにはコンエディソン社の火力発電所があります。東京でいえば、隅田川のあたりに発電所があるみたいなものです。知り合いのアパートがすぐ近くにあり、その発電所の設備がいかにも古そうなのを眺めていたことがありますが、そのことを考えると停電もなんとなく納得できます。

確かにアメリカではコストを節約するため、すぐに必要ではない投資に対しては節約される傾向があります。NYの地下鉄なども100年前の施設をだましだまし使っています。今回はそうしたツケが廻ってきたということかもしれません。このあたりがアメリカという国の「面白さ」です。つまり世界最先端の技術と「開発途上国」の技術とが混在しているという国がアメリカなんですね。

2003年10月28日火曜日 A day in the life of Hiroshi Tanaka in New York

中央大学名誉教授。事業構想大学大学院客員教授、BBT大学院客員教授。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長などを歴任。田中洋教授オフィシャルサイト Marketing, Brand, Advertising